認知症を患う人とつながる

先日の記事の続き>

母は、病院に着くまでの間、自分の症状を正確に説明したり、ふざけて一緒に笑ったりしていた。(→記事
しかし長時間待って診察室に入った時には、すっかり「調子が悪い」状態になっていた。
心も知能もとうに失われたかのような顔で、置物のように車いすに座っていた。

医師に母に残っている能力を説明した。
私との会話は、ここ数ヶ月、9割正常(1割妄想)。(3年近くその逆だった。)
足は動かないが(寝返りも打てない)箸も使えるし、毎食1人で上手に食べていると。

医師は、母を見た。何の反応もない母に、嘘のないいたわりの言葉が、自然にこぼれた。
「お母さんは、がんばっているよね・・」
それは、『長い間、大変だったね。辛かったね。よく乗り越えたね』と聞こえた。
「がんばってますとも〜!」
母が、突然、拳を前に突き出しながらはっきりとそう言い、花のように笑った。
反応があるとは、その場の誰も思っていなかった。医師自身も驚いていた。
「お母さん、楽しい人だなぁ!いい笑顔だなぁ!いいなぁ!こういう笑顔をもっともっと出してあげたいよね。こういう笑顔が出るってことが、今のお母さんにとっては、一番大事なんだよね」

母には、医師の心が、見えたのだと思った。
母は認知症になってから、人が心の奥底で感じていることを見抜く力が研ぎすまされた。
母は医師の深い思いやりの心に応えたいと思い、病前に常にそうしていたようにおどけて笑わせようとしたのだと思う。

今は、わかる。母は、この3年間、常にその小さな体の中に居た。
映画「ジョニーは戦場へ行った」の主人公が、手足も顔もない体の中で、人知れず思考し続けていたように。
母は、数年の間、数多くのBPSD (妄想や暴言などの困った症状)に覆い尽くされて、消えてしまったかのようだった。母は、ただ閉じ込められていたのだ。

その厚い覆いの奥に、確かにその人が居るのだと信じて手を伸ばす人が、母にはわかる。
その時、母は、力を振り絞って頭と体を動かし、その手をつかむ。つながる。

誰もが心の内を特定の人にしか話さないように、認知症の人も直感的に人を選んでいる。
怒らず、否定せず、呆れず、温かく、忍耐強く、敬意を持って寄り添う人の前に、人は、本当の姿を見せる。

<関連記事>
*「認知症の人と接するということ
*「認知症の母からの手紙
*カテゴリ:「認知症とは/ケア・介護

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紫陽花(アジサイ)


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変ですね

この記事を読みながら、何故だか涙が出てきました。

そうなんですよね。表面だけしか見ない人には、決して見せない真の姿を心の奥に大切にしまっているのですよね。

頭で考えることが減っているから、却って真の姿が直感で分かるようになったのかもしれません。認知症の人って、相手が「嫌だなぁ」と思っているとすぐに感じ取ります。心から優しく接する人には、素直に心を開いてくれる気がします。

[Candles]という歌の歌詞にあります。
Blow the candles out.It looks like a solo tonight.We beginning to see the light.
明るいと却って見えないものってありますよね。
大脳を発達させて、言葉で思考するようになって忘れてたものを人類に思い出させる為に、認知症の人はいるんじゃないかな?

kimiさん

コメントありがとうございます。

3回に渡って書いたこの一連のことで、レビー小体型認知症患者の認知機能(知性とか「頭の良さ」などを含めて)って、一体何だろうと考えています。
まだ上手く説明できません。

介護家族の方のお話を伺うと、BPSDが激しい方でも落ち着いた時には「苦労かけてごめんね」といった言葉が出ると、よく聞きます。

病気がかなり進行して、コミュニケーションが難しくなっても、そうした思いやりの言葉をふいに掛けられたというお話も伺います。

苦労をかけているという記憶、自覚、申し訳なさ、悲しみをレビーの方は、一般の方が想像するより遥かに長く持ち続けているのではないかと、私は考えています。

そうしたことを書いた本は、読んだことがなく、最近も新聞に紹介されていた認知症関連の「素晴らしい本(と紹介)」に「認知症の特徴は、病識(自分が病気であるという自覚)がないこと」と書いてあるそうです。

先日、あるレビー介護家族が、ネット上に「どうせ認知症になるなら、病識があって陰気なレビーより、病識がなく明るいアルツハイマー病になりたい」と書いた文章を目にしました。
(一般にアルツハイマー病の方は明るいと言いますが、どの位の割合の方が、どの位の期間「明るい」のかは、わかりません。)

比較できる問題ではありませんが、深く深く考え込んでしまいました。
プロフィール

<しば>

Author:<しば>
私は認知症について希望を持てる情報を集め、共有している一介護家族です。医療・福祉の従事者ではありません。

特定の医師・治療法等へのこだわり、信仰する宗教はありません。
認知症に関連するビジネスもしていません。
掲載する情報は正確・公正であるよう努めています。

このブログ内の記事は、出典さえ書いて頂ければ、自由にコピーして資料等として使って頂いて構いません。リンクもご自由に。

’13年5月から「レビー小体型認知症介護家族おしゃべり会」(全国に広がる家族会)公式サイトに「しば記者デスク」「体験記」というコーナーを頂き記事を連載中。(こちらの記事は会に著作権があります。)

ツイッター:しば@703shiba

*レビー小体型認知症の症状やチェック方法は、カテゴリの一番上「症状チェック」を。


母 '05パーキンソン病と診断。’10.3月要支援2→要介護4へ激変。5月レビーと診断。2度の転倒骨折入院の後、自宅介護が困難に。8月末グループホーム入所。’11年3月に圧迫骨折で寝たきりに。7月特養入所・要介護5に認定。'12年要介護4に回復。’14年なぜか要介護5になるが穏やかで普通に会話が可能。
S13(1938)年生まれ。

父 ’10年9月ピック病(前頭側頭型認知症)と診断。
昭和2桁生まれ。

私 ’60年代生の女性。300km離れた所に住む。日々の介護はきょうだいに頼り’10年から月1回、’12年から1〜2ヶ月に1回帰省。

好きなこと:読むこと・書くこと・草花の写真を撮ること等々。

*記事に付けた花の写真は私が撮影したものです。

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