「驚きの介護民俗学」(六車由実著)1
民俗学准教授から特別養護老人ホームの介護職員に転職した六車由実さんの著書「驚きの介護民俗学」。会話が成立しにくい重度認知症の利用者を相手に、民俗学の「聞き書き」の方法で、深い会話を成立させていく姿がとても興味深く、面白く、感動的な良書。
<民俗学の「聞き書き」=「話者から教えを受ける(P.155)」という姿勢で、相手の言葉そのものを聞き逃さずに書きとめることに徹し、それによって相手の生活や文化を理解するもの。(P.99)>
以下(青字部分)は、抜粋。一部、原文は残しつつ要約。( )は私が加筆したもの。
言葉の記録を重ねていくうちに、反応が、まったくトンチンカンなものではなく、なんとなく惜しいところをかすっているように思えてきた。例えば、「お手玉体操の時間ですよ」に「大方そうなんて言わないでよ」と返答する。お手玉の”お”、体操の”た”ではないかと気付き、それならもっとゆっくりはっきり耳元で語りかければ会話ができるかもしれないと直感する。(P.84)
(やがて片耳の難聴に気付き)右耳に話し掛ければ言葉の意味を理解し、返事をすることを発見。(この利用者が)一生懸命耳を傾けて、言葉のいくつかの音だけを拾って言葉を想像し反応していたことがわかる。会話も成り立たない人というのはこちらの思い込みだったのである。(P.83〜87)
(困った人と思われている利用者の言葉を聞き、観察していくと)ハルさんは家族思いで、心配性で、ユーモアあふれる魅力的な人だとわかる。私たちは、ハルさんのそうした気持ちを理解しないまま「不穏」というレッテルを貼ってみていたのである。(P.91)
介護や福祉の世界では、態度、表情などから気持ちを察することが過剰に重視され、語られる言葉を聞き流す傾向がないか。(P.96)
認知症の利用者の言葉は、脈絡もなく、意味のないものとみなされてしまいがちだ。
しかしそれにつきあう根気強さと偶然の展開を楽しむゆとりをもって、語られる言葉にしっかりと向き合えば、その人の人生や生きてきた歴史や社会が見えてくる。(P.110〜111)
「へー、そうなんですか。すごいですね」「それ、初めて聞きました」「それって、つまりこういうことですか」とこちらが「驚き」を言葉と体で思いっきり表しながら身を乗り出して聞くと利用者も一生懸命自分の知っていることを教えてくれようとする。
私の「慣れ」と「怠慢」はすぐに覚られ、話を続けようとはしなくなる。(P.195)
(大切なことは)驚き続けること。「驚きの快感」を感じているほど、話者の表情も豊かになり、深い所まで話を掘り下げることができる。気持ちよく心豊かに話をするためにも「驚き」は重要な態度。驚き続けるための拠り所は、民族研究者としての「矜持」と「知的好奇心」である。(P.196)
注)矜持(きょうじ)=自信と誇り。プライド。
この記事は、(2)に続きます。
<関連記事>
*「長谷川和夫氏の講演内容」(「長谷川式スケール」の開発者)
*「語ることと聴くこと」(「臨床とことば」河合隼雄・鷲田清一著)
*「聴く力」(話すことが困難な人たちが、話すために必要なこと)

(→アマゾン)
<民俗学の「聞き書き」=「話者から教えを受ける(P.155)」という姿勢で、相手の言葉そのものを聞き逃さずに書きとめることに徹し、それによって相手の生活や文化を理解するもの。(P.99)>
以下(青字部分)は、抜粋。一部、原文は残しつつ要約。( )は私が加筆したもの。
言葉の記録を重ねていくうちに、反応が、まったくトンチンカンなものではなく、なんとなく惜しいところをかすっているように思えてきた。例えば、「お手玉体操の時間ですよ」に「大方そうなんて言わないでよ」と返答する。お手玉の”お”、体操の”た”ではないかと気付き、それならもっとゆっくりはっきり耳元で語りかければ会話ができるかもしれないと直感する。(P.84)
(やがて片耳の難聴に気付き)右耳に話し掛ければ言葉の意味を理解し、返事をすることを発見。(この利用者が)一生懸命耳を傾けて、言葉のいくつかの音だけを拾って言葉を想像し反応していたことがわかる。会話も成り立たない人というのはこちらの思い込みだったのである。(P.83〜87)
(困った人と思われている利用者の言葉を聞き、観察していくと)ハルさんは家族思いで、心配性で、ユーモアあふれる魅力的な人だとわかる。私たちは、ハルさんのそうした気持ちを理解しないまま「不穏」というレッテルを貼ってみていたのである。(P.91)
介護や福祉の世界では、態度、表情などから気持ちを察することが過剰に重視され、語られる言葉を聞き流す傾向がないか。(P.96)
認知症の利用者の言葉は、脈絡もなく、意味のないものとみなされてしまいがちだ。
しかしそれにつきあう根気強さと偶然の展開を楽しむゆとりをもって、語られる言葉にしっかりと向き合えば、その人の人生や生きてきた歴史や社会が見えてくる。(P.110〜111)
「へー、そうなんですか。すごいですね」「それ、初めて聞きました」「それって、つまりこういうことですか」とこちらが「驚き」を言葉と体で思いっきり表しながら身を乗り出して聞くと利用者も一生懸命自分の知っていることを教えてくれようとする。
私の「慣れ」と「怠慢」はすぐに覚られ、話を続けようとはしなくなる。(P.195)
(大切なことは)驚き続けること。「驚きの快感」を感じているほど、話者の表情も豊かになり、深い所まで話を掘り下げることができる。気持ちよく心豊かに話をするためにも「驚き」は重要な態度。驚き続けるための拠り所は、民族研究者としての「矜持」と「知的好奇心」である。(P.196)
注)矜持(きょうじ)=自信と誇り。プライド。
この記事は、(2)に続きます。
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